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ブロックチェーンに危険性はあるか

ブロックチェーンに危険性はあるか

2018年08月22日

 

サトシ・ナカモトがビットコインに関する論文を最初に発表したのが2008年。それから10年の間に、ビットコインは社会に大きな影響を及ぼすまでに成長し、何百種類もの暗号通貨が生まれ、ブロックチェーン技術も多くの亜流を生みながら拡大してきました。

ここまで、ブロックチェーンが社会にもたらすポジティブな作用を書き連ねてきましたが、新しい技術には副作用が伴うものです。ブロックチェーンも例外ではなく、その登場によりネガティブな動きや、社会からの拒否反応も起きています。代表的なものとしては以下のような事例が挙げられます。

 

 

■ブラックマーケットを助長する?

インターネットの裏社会ともいえるダークウェブでは、武器、麻薬、臓器、偽造パスポートなどの売買が行われ、反社会的な組織に資金や物資が供給されています。そこで暗号通貨が利用されているのも事実です。

マネーロンダリングの手段の一つとしても暗号通貨が使われており、大きな問題となっています。暗号通貨が裏社会を肥大化させているという意見もあるほどです。では、暗号通貨とブロックチェーンが無くなれば犯罪は消滅するのでしょうか?

残念ながら答えはNOです。

テロリスト集団などの反社会的な組織は、ブロックチェーンが誕生する前からインターネットで闇取引を繰り返していました。インターネットが登場する前は、社会の裏側の現実空間で暗躍していました。おそらく、ブロックチェーンが無くなれば、彼らは新しい手段を使い、あるいはひと昔前の手段に先祖返りしてでも、闇の活動を続けるでしょう。ブロックチェーンや暗号通貨が社会悪を増やしているのではなく、社会悪が利用する手段が変わっているのであって、「暗号通貨が悪を助長する」と結論するのは短絡的です。偏った報道や記事などが、そういった傾向に拍車をかけているようにも感じられます。

しかし、反社会的集団にブロックチェーンが悪用されているというのは紛れもない事実であり、彼らの取引をより加速化させているということも、決して看過できる問題ではありません。だからといって「原因になるものはこの世から無くしてしまえばいいのでは」という不毛な問題提起をするのではなく、ブロックチェーンの正しい使い方を広めながら、悪用する者をゼロにするための方法を考えるべきでしょう。

この問題は、いわば「プロメテウスの火」のようなものです。誰も答えを見つけることができていません。

 

 

■個人情報が丸裸になる?

ブロックチェーンの世界では、取引情報が全て公開されています。これは改ざんが不可能であることなどと同様、ブロックチェーンの大きな特徴の一つです。

公開されているということは、情報が無防備になっているということです。そこには国家も企業もハッカーも、喉から手が出るほど欲しがっている無限のデータが含まれています。重要な個人情報をブラックボックス化していても、取引の全貌は全て監視可能なのです。建物の入り口にカードキーと指紋認証システムと音声認識システムで堅牢なセキュリティを施していても、壁がガラス張りならプライバシーはありません。

この問題に対しては各研究団体などでも対策が進められており、暗号通貨のZcashやethereumは「ゼロ知識証明」という手法を導入して、情報の秘匿性を高めています。また、前述のプライベート型やコンソーシアム型のブロックチェーンを対策方法として挙げている団体もあります。ブロックチェーンの本来の特徴は失われますが、情報の保護がそれに勝る場合はプライベート型・コンソーシアム型も有効な手段の一つとなります。軍事利用などはまさにその典型でしょう。

 

 

■失業者が増える?

「ブロックチェーンの有用性」の項でいくつかの例を交えて延べた通り、ブロックチェーン技術は既存のシステムを破壊し、新たなネットワークを構築しながらスマートコントラクトを実現・拡大し続けています。その動きの中で、従来のビジネスのいくつかは解体され、それに携わる人々の仕事が奪われるのでは、という懸念が広がっています。

これについての答えは、YESでもあり、NOでもあると言えます。

たとえば、インターネットの普及は、物流に大きな変革をもたらしました。その影響で、どこかの町では小さな書店が消えてしまったことでしょう。しかし、別の町では小さな旅館に外国人の宿泊客が押し寄せるといった効果を生んできた筈です。結果として、我々は新しいツールの利用方法を考え、その変化に適応し、生活を向上させていっています。今の世の中で「インターネットがなくなった方が良い」と考える人は、極めて少数派だと思われます。それと同様に、ブロックチェーンがもたらす改革の中でも我々は適応し、新しいビジネスを生み出しながら、生活を向上させていけばいいのです。

 

 

■「中央集権」を加速化させるツールになる?

ブロックチェーンは、既存の中央集権型の情報管理に対して、分散化という強力な作用をもたらします。しかし使い方を間違えると(あるいは意図的にねじ曲げると)、分散化のプロセスは逆行し、中央集権をさらに加速させるツールになる可能性も持っています。

たとえば、前述のシェアリングエコノミーに、企業が支配するブロックチェーンを導入し、ユーザーを大量に取り込んだ上で、巧妙に他者の参入を排除した場合、管理者の権限はさらに強大になるでしょう。誰の支配も受けないパブリックブロックチェーンの力で対抗することもできるかもしれませんが、巨大企業の妨害の前には歯が立たないかもしれません。

ブロックチェーンが誕生した時から持つ存在理由を無視して、権力者がブロックチェーンをも支配しようとした時、そしてそれに成功した時、分散という言葉は意味を持たなくなります。だからこそ、「ブロックチェーンの存在理由」がまだ生きている現在、誰のものでもない本物の「分散化台帳」を広めて、一握りの大きな力からそれを守り、我々もまた自衛しておく必要があります。

 

 

■量子コンピュータがブロックチェーンの暗号を破る?

現在、各国で研究が進められている技術の一つとして、「量子コンピュータ」というものがあります。量子コンピュータを説明するのは難しいですが、非常に端的に言うと、従来のコンピュータが行ってきた2進法に基づくデジタル計算を、量子力学を用いることで根本から変え、計算速度を飛躍的に向上させる、といったものです。

これが実現し、現在とは比較にならない超高速計算が可能になると、ブロックチェーンの構成要素の一つである「暗号」が破られてしまう可能性が出てきます。前述のハッシュ関数による暗号化は、「解読することが非常に困難」ではあるのですが、不可能ではないのです。

量子コンピュータはまだ実用化には至っていませんが、各国の研究機関はそれぞれに独自の成果を出しており、現在のコンピュータ技術が根本から転換される日もそう遠くはないかもしれません。その時、暗号が無力化されてしまうと、ブロックチェーンも成立しなくなります。そのため、量子コンピュータだけでなく、ブロックチェーンの「耐性」に関する研究も進められています。

実際に、ハッシュ関数を超える超高難度暗号化技術も既に開発されており、これらは量子コンピュータからの攻撃にも耐えうると考えられています。ブロックチェーンが進化するのが先か、量子コンピュータが実用化されるのが先か、テクノロジーの超高速レースは今も続いています。

 

以上、いくつかの事例をピックアップしてみましたが、この他にも様々な問題が指摘されています。たとえば、「ブロックチェーンが詐欺に利用される」といったものです。これについては、後の「ICO」に関する章で述べたいと思います。

 

ブロックチェーンは、その概念の誕生から10年を経過しましたが、まだ子どものような状態の中にあります。ブロックチェーンが幼いのではなく、それを取り巻く環境と、使う人間の、道徳やルールがまだ未成熟な段階にあるのです。しかし、新しい技術のもたらす影響に怯えていては、進化も向上もありません。幸い、世界中の技術者や研究者がブロックチェーンの運用に伴う危険を指摘し合っており、それをカバーする技術も次々に誕生しています。中には、危険性だけを拾い出して、ブロックチェーンのポジティブな面を丁寧に潰していこうと試みているような意見も散見されます。こういったものを見ると、医療における「ワクチン」のことが思い起こされます。

日本では、新しく導入したワクチンの接種を開始した際、わずかな副反応が出ただけでも大騒ぎになり、メディアも先を争って報道します。特に海外のワクチンが国内で認可されて導入が始まり、問題らしきものが見られた時には過剰な反応が起き、場合によっては接種が中止されることもあります。しかし仮に、感染したら1万人に1人が命を失うウイルスがあるとして、ワクチンの普及で百万人に1人までその犠牲が抑えられるとしたら、副反応を恐れてワクチンの接種を中止する意味があるのでしょうか。近年では、ヒブワクチンや子宮頸がんワクチンの接種開始時にも、似たような現象が起きました。騒ぎの中で右往左往している間にも、ウイルスの犠牲者は1人、また1人と増えてしまいます。

これらは、問題が起きるとその部分だけを拡大コピーしてばらまくというメディアの報道のまずさと、日本独特の“黒船恐怖症”が相まって、国全体が外来種に対してアレルギーを起こしている状態だといえます。しかし、大切なのは問題そのものではなく、問題の解決方法であり、結果として全体に何がもたらされるかという点です。

 

ブロックチェーンは否応なしに、我々の社会に浸透してきます。すでに遅れを取っている日本が、このまま機会を逸し続けて、ブロックチェーン後進国に成り果ててしまう事態だけは避けなくてはなりません。世界の中で「テクノロジーについていけない」という状態を生むことが、最も大きな危険を孕んでいるかもしれないのです。

 

 

SF界の巨匠、アイザック・アシモフが『I,Robot』を発表したのは1950年のことでした。この傑作短編集は、SFファンだけでなく、ジャンルも世代も超えて、今も世界中の人に愛され続けています。9本の作品からなるこの短編集の、冒頭からエンディングまでを通して流れるテーマの一つが、有名な「ロボット工学三原則」です。

「人類に対する安全」、「命令への服従」、「自己防衛」から成るこの三つの原則は、作品の一つひとつを彩ると同時に、現実のロボット工学にも大きな影響を与えました。さらに近年、AIの普及と同時に再び注目を集めており、AI搭載ロボットにこれらの原則を実装することが可能かどうか、といった研究も進められています。

「ロボット工学三原則」が誕生した1950年当時、おそらく世界はロボットに夢を託し、同時に畏れのようなものも抱いていたことでしょう。そういった人々の心理は『I,Robot』の作品中にも読み取れます。だからこそ、ロボットたちには行動規範が必要だとされ、「永遠に人類の味方であれ」という願いを込めてロボット工学三原則が考案されたものと推測されます。この時代の感覚は、現在のブロックチェーンに対する人々の感覚と非常に近いのではないでしょうか。

ブロックチェーンが何かを実現するたびに、人々はその可能性に対してさらに大きな夢を託し、その反面、畏れにも似た感覚をおぼえながら、この巨大な怪物を飼い慣らそうと考えをめぐらせているように感じられます。

ブロックチェーンが誰のものでもない今、怪物が人間に牙をむくことがないよう、そして富を平等に分配し我々の生活を豊かにしてくれるツールであり続けるよう、それを操る人間の側の規範が必要になります。本章の冒頭で伝えたように、ランプの魔人ジーニーには人間の“倫理”が必要です。ブロックチェーンと同様、ジーニーは主人が誰かということには頓着せずその命令に従い、与えられた使命を忠実に実行します。ジーニーに「悪人の命令には従うな」と伝えたら、彼はこう聞き返すでしょう。「それは、ご主人さまの一つ目の願いですか?」。

ドン・タプスコットとアレックス・タプスコットは『ブロックチェーン・レボリューション』の中で、ブロックチェーンに求められる価値観を「7つの原則」として我々に提示しました。これはブロックチェーンに与えられたミッションを再確認する上で、非常にシンプルで分かりやすく、的を射たものです。ここでは、よりコンパクトに、かつ人とテクノロジーの調和という視点に立って、ブロックチェーンを正しく構築するための5つの原則を提示したいと思います。

 

JBCIAが提唱する「ブロックチェーン構築のための5原則」

 

1.誰からの支配も受けない(分散と平等の鉄則)

2.誰にも不利益をもたらさない(差別の排除、不正の抑止、搾取の根絶)

3.利益享受を実現し続ける

4.他のテクノロジーと調和する

5.以上の4原則に反しない限り進化を続けるテクノロジーであり続ける

 

この5つの原則は、サトシ・ナカモトが発表した論文や彼の思想を基盤とし、さらにその後継者とも言うべき多くのエンジニアや研究者たちの活動をふまえた上で、注意深く不純物を取り除き、我々の解釈を加えたものです。ブロックチェーンを正しく運用する上で欠かせない基本思想だと言えます。以下、項目ごとに解説を添えます。

 

 

1.誰からの支配も受けない(分散と平等の鉄則)

ブロックチェーンはP2Pネットワークで実現される分散化台帳です。分散化されているのは、マシンパワーであり、データでもあるのですが、同時に権力も分散化されていなくてはいけません。

ワンマン、トップダウンといった中央集権的な決定はブロックチェーン上では許されず、関わる人全員が平等に全体を最適化している、という状況で合意形成が繰り返されます。別の表現をするなら、誰かの支配下で情報管理をしたいのであれば、そこにわざわざブロックチェーン技術を用いる必要はなく、従来のサーバー/クライアント型の方法を続けていれば済むのです。それでもあえてブロックチェーン技術を導入するのだとすれば、中央集権の中心にいる企業や人をさらに肥やそうとしているのか、又はその中心を見えづらくしているのか、あるいはブロックチェーンの脅威から身を守るために先手を打って、自分たちのブロックチェーンを作り、それを強大にして他の参入を許さない状況を作り上げようとしているのか、いずれにしても我々にはあまり歓迎できない目論見があるように思われます。

繰り返しますが、ブロックチェーンの根幹にあるのは「分散」「平等」という大原則であり、これを逸脱しているものに対しては、誰のために大原則を捻じ曲げる必要があるのか、という点を明らかにした方が良いでしょう。ブロックチェーンはその偏りのない平等性によって、世界の隅々までを繋ぐ取引を可能にし、貧困にあえぐ人々の家に明りをともし、チャンスに恵まれない若者に発表の場と権利を守る手段を与えます。そして、努力する人や、アイデアを持つ人には、相応の利益をもたらすことができます。分散と平等の性質が失われた時、これらの可能性も全て無に帰すことでしょう。