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ブロックチェーンが私たちにもたらすもの

2018年07月07日

 

暗号通貨の認知度の高まりと共に、「ブロックチェーン」という言葉にも注目が集まり、メディアでも頻繁に取り上げられるようになりました。今や業界を問わず様々な人がブロックチェーンの活用法を研究し、あるいは既に導入して、将来の活路を模索しています。

ブロックチェーン技術を活用できるジャンルは、各企業はもちろん、行政や、医療、福祉、健康、教育など多岐にわたり、その可能性は更なる広がりを見せています。近い将来、私たちの生活の大部分にブロックチェーン技術が関わってくる、という予測もありますが、あながち間違ってはいないでしょう。

 

しかし残念ながら、現在でもブロックチェーンの概念は充分に認知されているとは言えず、誤解から生じるトラブルが後を絶ちません。ブロックチェーンに関する情報も玉石混淆の様相で、混乱に拍車をかけています。大量に出版されている書籍の中にすら、首をかしげたくなるような内容のものが存在します。

 

また、現状を見て分かる通り、ブロックチェーンは既存の社会の繋がり方を根底から変え、国家という枠組みさえたやすく超越し、新しいヒト・モノ・コトのネットワークを次々に構築し続けています。ただし、この潮流に正しく乗っていくためには、ある程度のリテラシーが求められます。

果たして、今の日本は、ブロックチェーンの潮流に乗るにあたって充分なレベルに達しているといえる状況でしょうか。私たちはその点に大きな疑問を感じています。例えば暗号通貨などでブロックチェーンに何らかの関わりを持っている人に、「ブロックチェーンとは何か?」という質問を投げかけても、的を射た答えは一部の人からしか返ってきません。また、皮肉なことに、2018年1月に発生したコインチェックのNEM流出事件に代表されるような悪い出来事が起こると、それをきっかけにブロックチェーンの認知度も上がり、同時に誤った情報やネガティブな認識まで拡散されるということも起こっています。

 

このままでは、日本はブロックチェーン後進国となってしまいます。今後の社会のあり方を大きく左右するであろうブロックチェーンを充分に活用できないというのは、国際社会において致命的といっても過言ではないでしょう。ブロックチェーンは「国家という枠組みも超越する」と先ほど書きましたが、技術や知識が劣っている状態でそれをすることは、決して望ましいことではありません。

このような状況を打破したい、という思いで創立されたのが「JBCIA」(Japan Block Chain Industry Association=日本ブロックチェーン産業協会)です。

 

JBCIA(日本ブロックチェーン産業協会)について

JBCIA(日本ブロックチェーン産業協会)は、日本のブロックチェーンコミュニティへの教育と、その推進・発展を目的とし、「グローバルリーダーの育成」及び「ベストプラクティスの実現」を達成することを目指して立ち上げられました。

また、JBCIA(日本ブロックチェーン産業協会)の使命は、ブロックチェーンの世界的な採用を推進し、経済的持続可能性に現実的なインパクトをもたらすことにもあります。さらに、ブロックチェーンに関する模範的な基準をベンチマークすることを通して、日本をブロックチェーン分野の主要国の一つにするよう努めます。これらの目標に到達するために、様々な活動を行っています。概要は以下の通りです。

 

■教育

次世代のブロックチェーン技術を担う技術者の育成・支援。

■研究・開発

ブロックチェーン技術の研究開発を推進し、産業の発展のための礎を築く。

■知識の仲介と普及

ブロックチェーンの知識を分かりやすく広め、より多くの人の啓発に努める。

■連携と発展

開発者間の連携を促進し、新しいブロックチェーン技術の創出を行う。

■グローバルエンゲージメントの構築

ブロックチェーンの関連市場開拓に向けた、国際パートナーとの関係構築。

■グループ活動

情報を共有し、会員の業務・活動へ迅速に生かすことのできるシステム構築。

 

 

ブロックチェーンの詳細については本編で改めて触れますが、その特徴のひとつは「P2P」、つまり中央集権ではなく平等なネットワークを構築するというものです。さらにその中で、互いに支え合い、見張り合いながら、不正や虚偽を排除するという機能を併せ持ち、利益を追うだけでなく全体調和を図るという理想も与えられています。この考え方は、JBCIA(日本ブロックチェーン産業協会)の創立理念とも正確にリンクしています。

様々な活動を通して、ブロックチェーンの知識や技術を正しく広め、利用者が正当に利益を享受できる環境を作り、リスクを軽減させ、悪質なものを排除する。さらに、ブロックチェーンに次世代の変化が訪れた時にはいち早くそれを察知し、道筋を立てて示して行く。そこに向かうステップのひとつとして、ブロックチェーン及びそれに関連する情報を共有しようというのが、今回から始まる連載の主旨です。

 

これから掲載を開始する一連の記事を通して、ブロックチェーンについての正しい理解が広がり、将来に向けての可能性や理想が共有され、日本のみならず世界におけるブロックチェーン技術の活用に寄与できることを願ってやみません。

 

 

 

 ブロックチェーン

 

2-1 ブロックチェーンとは何か?

 

ドン・タプスコット、アレックス・タプスコットによる著書『ブロックチェーン・レボリューション』の冒頭において、彼らはブロックチェーンのことを「テクノロジー界の魔人(ジーニー)」と表現しています。これはまさにブロックチェーンの本質をあわらした的確な比喩だと言えます。

『アラジン』に登場するランプの魔人ジーニー。人の望みを何でも叶えることができる彼の魔法は、アラジンのような善人が持てば誰かを助けることに役立ちますが、権力欲に満ちたジャファーのような人の手に渡ると邪悪なツールとなり、混乱の元凶となります。ブロックチェーンが秘めている可能性も全く同じ性格のものです。

ブロックチェーンそのものはテクノロジーの産物であり、情報を管理・運用する手段の一つです。そこにイデオロギーのようなものは存在しません。したがって、偏見も差別もなく、誰もが平等に参加でき、公平に利益を享受することができます。ブロックチェーンが正常に機能している限り、不正が行われる確率はほとんどゼロに等しく、それと同時に、ブロックチェーンが正常に機能し続ける可能性は、過去の様々なテクノロジーと比較しても突出して高いと言えます。これはきわめて革新的なことであり、インターネットの登場、あるいはそれを超えるインパクトを持つ事象です。

しかし、革新的な発明や突出した技術は、時に権力や巨大な組織に独占され、ねじ曲げられて、その本来の目的とは異なった方向に暴走することがあります。この事実は歴史が証明しており、枚挙に暇がありません。ノーベルもアインシュタインもフォン・ブラウンも、自分たちの発明や発見が多くの人を不幸にすることなど予想もしなかったでしょう。

 

どんなに優れたツールも愚者が手にすれば混乱を生む代物に成り果ててしまいます。昨今の、ICO乱立によって一部で起きている詐欺まがいの行為(あるいは詐欺行為そのもの)もこれにあたると言っていいでしょう。ブロックチェーンはまだ成熟途上段階にあり、その過程における、いわば成長痛のようなトラブルも起こしています。しかし、これらのほとんどはブロックチェーンが持つ不完全性によるものではなく、誤解、誤用、悪意によって発生させられたものです。こういった背景もふまえ、この記事(※製本時には「この記事」→「本書」に変更、以下同)の基本姿勢として、ブロックチェーンは「金儲けのためだけのツールではない」、「権力者や巨大組織をさらに肥えさせるための道具ではない」という点を軸の一つに据え、話を進めていきたいと考えています。

少し前置きが長くなりました。本題に入りましょう。ブロックチェーンの概要について、以下説明していきます。

 

本項の「ブロックチェーンとは何か?」という見出しを見て、「ブロックチェーンのことはもう熟知している」と思われた方もいるかもしれません。しかし、ブロックチェーンは未だに明確に定義されていない事象であり、個々の認識に微妙な相違が生じていることもあります。本記事における「ブロックチェーンの定義」を明確にするために、改めてブロックチェーンの概要を記述します。

 

ブロックチェーンは、ごく簡潔に説明すると「巨大な台帳が分散化され、ネットワークでつながったもの」です(生成の順序は逆ですが、あえて分かりやすく記述します)。日本語では「分散型台帳」などと呼ばれ、「分散型ネットワーク」と表現されることもあります。ブロックチェーンという言葉は、分散化台帳を構成する技術を意味したり、分散化台帳そのものを指したり、あるいは分散化台帳を取り巻く事象すべてを含んでいたりすることもありますが、この記事においては、「ブロックチェーン=分散化台帳」として扱います。

 

ブロックチェーンは、その名の通り「ブロック」と「チェーン」の、2つの構成要素から成り立っています。これを「P2P」方式でつなぎます。

 

<ブロック>

一定期間内の取引記録、及びそれに付随するデータが保存された固まり

 

<チェーン>

「ブロック」をインターネットでつなぎ、共有する仕組み

 

<P2P(peer to peer)>

コンピュータ同士を、サーバーを介さず対等につなぐ方法

 

例えばビットコインの場合だと、約10分間の取引が1つのブロックに保存されています。このデータを、ブロックチェーンを構成するコンピュータ端末=ノードが所有します。ノードはネットワークでつながっており、これによりデータが共有化されます。この連鎖を多く持つことによって、膨大なデータの共有・管理が可能になります。さらに、データは高度に暗号化されており、改ざんなどの不正を行うことが事実上不可能な仕様になっています。

より具体的な内容や特徴については別項で説明しますが、この仕組みが成立し、機能した結果、従来のサーバー/クライアント型に代表される、中央集権型の情報管理が必要なくなるのです。

 

 

 ブロックチェーン

 

2-2

 

これだけを聞くと「新しいタイプのデータベースが登場しただけではないか」と解釈されてしまうかもしれません。ブロックチェーンの一つの側面のみを見ると、その解釈は間違ってはいないといえるでしょう。しかしその「新しさ」が、ブロックチェーンにおいては「進化」ではなく「革命」といえるレベルの新しさであり、従来のデータベースという考え方からも大きく飛躍しているため、ブロックチェーンを取り巻く事象では、既に過去に類を見ない情報の流れが生まれていっているのです。

 

従来は常識だった「中央集権型」の情報管理体系が、「全て対等」の情報管理体系に変わるのは非常に画期的なことです。中央集権型の情報管理においては、全ての情報を巨大なサーバーが集約・管理し、そこに接続を許されたクライアントがアクセスして閲覧するという方法がとられます。情報はサーバー所有者のもので、所有者の意思で改ざんが可能であり、削除することも閲覧を制限することもできます。当然、所有者の利益のために情報を利用したり、他人に供与したりすることも可能です。クライアントはそれをコントロールすることができません。そして実際に、この中央集権型の管理体系が起こすトラブルは後を絶ちません。巨大企業からのデータ流出、政治における誰かの利益のための情報改ざん、サーバーのダウンが引き起こす私たちの生活における不利益…誰もが体験し、目にしていることばかりです。

 

ブロックチェーンの特徴である「P2P」で情報を管理する場合、そこに権力者は存在しません。誰もが同じレベルの権限を持ち、情報が特定の誰かの利益のために悪用されることはなく、勝手に削除されたり閲覧を制限されたりすることもありません。ブロックチェーンにおいては、データの改ざんをしようとしても膨大なエネルギーを要するため、その行為自体が無意味で、場合によっては大きな損失を伴う、という抑止力が働きます。さらに、サーバーを持たないのでシステム全体がダウンするようなことも起こりません。

 

以上のような特性を持つことから、ブロックチェーンの登場は「信頼革命」だとも言われています。従来は、情報をまとめる側、つまりネットワークにおけるサーバーに位置する側である国家や企業や特定の団体などに対して、私たちは根拠のない信頼を置くしかありませんでした。「国だから企業と違って潰れることはないはずだ」「大企業だから間違ったことはしないだろう」「公的機関だから信用して差し支えないだろう」といった、極めて曖昧な感覚のもとの信頼です。

しかし実際は、そこには何の担保もありません。国家が破たんすれば貨幣は価値を失います。この100年間、世界中で何度も起こっている事例の通りです。大企業も、ふとしたきっかけで倒産したり、他の企業に買収されて方向性を変えたりします。公的機関でも不正は頻繁に起こっています。人間が関わり、利益が絡んでいる限り、「100%の信頼」を寄せることができる対象など事実上存在し得ないのです。

では、ブロックチェーンはどうでしょうか。前述の通り、改ざんができず、関係が平等であり、互いに補完し合いつつ見張り合うという特性をいかし、正常に運用することで、その信頼性は限りなく100%に近づけることができます。ブロックチェーンでは、「不正を行っても誰も得をしない」という単純な原則がその信頼性を担保してくれます。法による規制も、宗教も道徳も介在せずに信頼を構築できるという点で、ブロックチェーンには「信頼革命」という言葉がふさわしいのです。

 

では「信頼」を必要としているものとは何でしょうか。おそらくその答えは「世の中のほとんど全て」ということになるでしょう。そして、ブロックチェーンは「世の中のほとんど全て」のシーンにおいて活用できるポテンシャルを持っています。情報を必要としているモノやコト、つまり産業・経済・文化や、医療福祉、教育や政治に至るまで、あらゆる世界に大きな変化を及ぼす可能性を秘めているのです。今後、ブロックチェーンの進化と広がりによって、全ての人が何らかの影響を受けるという予測もありますが、これも決して大げさな表現ではありません。

 

このように、ブロックチェーンの可能性は限りなく広がっていますが、その概念は、ブロックチェーン自体の成立を目指して生まれたのではなく、ビットコインを成立させるために誕生した、という背景を持っています。

現在、仮想通貨の代名詞的存在になっているビットコインは、2009年に運用が開始されました。ビットコインのシステムは、その1年前、2008年にサトシ・ナカモトという謎の人物により発表されています(サトシ・ナカモトの人物像については後述)。このビットコインを成立させるシステムの中核となるのがブロックチェーンです。つまり、ブロックチェーンはビットコインが機能するための、いわゆる副次的な概念として登場したものだと言えます。しかしブロックチェーンの理論は、仮想通貨だけでなく他の分野にも簡単に応用が可能なものであり、しかも低コストで実現できるということから、多くの人々の注目を集め、研究も進められました。その後、ビットコインをはじめとする暗号通貨が破竹の勢いで価値を高め、世界中に浸透していったのは周知の事実です。

 

 

 ブロックチェーン

 

2-3

 

ただし、新しい技術や概念が登場した際には「誤解」も生じるもので、その誤解が技術や概念の正しい発展を阻むことがあります。ブロックチェーンも、現在同じような状況に晒されています。誤解が生じた発端には様々なものがありますが、最も目立つのが、ブロックチェーンと密接な関係を持つ「暗号通貨」に関するトラブルです。

暗号通貨にまつわるトラブルは今までに何度も起きており、中でも大きく取り沙汰されるのが、取引所での大量流出事件です。その最たる例が、2004年に起きたマウントゴックスの破綻や、国内で2018年に発生したコインチェックのNEM流出といった事件でしょう。

こういった事件が起きるたびにメディアはセンセーショナルに報道し、暗号通貨の危険性を喧伝します。さらに、識者と呼ばれる人たちが登場し、暗号通貨やそれにまつわる事象に否定的な見解を示したりもします。暗号通貨やブロックチェーンに対してまだ多くの情報を持たない市井の人々は、そういったメディアに呼応して「何か危険なもの」「良く分からない不気味な存在」という偏見を植え付けられてしまいます。そういった人たちに対しては、ぜひもう少し勉強してほしいと感じざるを得ません。

暗号通貨の流出事件を例に挙げると、事件の原因は取引所の管理体制にあり、暗号通貨やブロックチェーンには何の問題もないのです。分かりやすくたとえるとすれば、コインロッカーに保管していた現金が、泥棒に鍵を破られて盗まれてしまった、というような事例が考えられます。この場合、問題はどこにあるのでしょうか。おそらく、コインロッカーの管理者と、設計した会社、コインロッカーを設置していた場所のセキュリティ、といった点だと思われます(もちろん、泥棒の存在が一番の問題ですが)。このケースで「日本銀行券には問題がある」とか、「金融制度の欠陥が原因だ」などと考える人はいないでしょう。暗号通貨の流出事件も同じことです。盗まれた「価値」が現金だったのか、データだったのか、という違いがあるだけで、例に挙げた事例と何ら変わりはなく、事件の原因は全て「人」と「会社」にあるのです。

そのような大きな事件で世の中が混乱している間にも、ブロックチェーンそのものは、あたかも惑星の運行のように、淡々と正確に機能し続けているのです。それは事件前も、事件後も変わりません。「信頼革命」という言葉は、ブロックチェーンの運用の正確性にも当てはまるのです。

 

さて、ここで再び「ブロックチェーンの定義」をもう一つ設けたいと思います。それは、この記事内で語られるのは主に「パブリック・ブロックチェーン」に関してのことである、という点です。

ブロックチェーンには、「パブリック・ブロックチェーン」と「プライベート・ブロックチェーン」の2つが存在し、性格を大きく異にします。両者の違いについては後に詳しく記述しますが、大雑把に説明すると、プライベート・ブロックチェーンは、「管理者が存在し、ノードも管理者が決める、誰かにコントロールされたブロックチェーン」という性質のものです。ブロックチェーンの技術を活用しているため、しばしば両者は同じものとして語られることもありますが、プライベート・ブロックチェーンは「全て対等」ではなく、「分散化」という面でも完全とはいえません。そもそも管理者がコントロールしている時点で、プライベート・ブロックチェーンは中央集権型の色合いが濃いものだと考えられます。

もちろん、プライベート・ブロックチェーンには長所もあり、プライベートだからこそ活用できるシーンもあるのですが、ブロックチェーンの最大の特徴を活用できているとは言い難いので、この記事においては「ブロックチェーン=パブリック・ブロックチェーン」という視点で語り進めていきたいと思います。

 

ビットコインという方程式を成立させるための変数のように誕生した「ブロックチェーン」。この考え方は暗号通貨の世界だけでなく、前述の通り金融や行政、福祉、教育など様々な分野で利用できる可能性を秘めています。また、軍事の分野では外部からのサイバー攻撃対策やシステムダウン防止策としてブロックチェーン技術が既に導入されており、むしろ仮想通貨よりも活発な運用と研究が進められている、という事実もあります。

このように利用の幅が広まっていったのは、ブロックチェーンが持つ特徴に期待感が高まっているためです。その特徴を説明する前に、ブロックチェーンとビットコインを生み出した「サトシ・ナカモト」について、その人物像をなぞってみたいと思います。